JUGEMテーマ:
建築人はそれぞれ生きているわけだから、みんなリアルな存在か...
あたりまえだな。
それが、
人間のリアリティを作るとなると、突然難しくなる。
「悪人」を見ました。 リアルな世界に圧倒された。
人を殺した若者と、知り合った女性が逃避行するというストーリーだけど、
映画の主題はそこではない。
地方で、狭い世界で、生まれてからずーっと何処にも出ない繰り返しの日常。
人が感じてる閉塞感、無常観を、表わしたかったんだろう。
「ほんとうの悪人は誰なのか?」って論じられているみたいだけど、
そういう観点で見たら、ただの恩着せがましい映画だ。
じゃあ何を見たら良いか?
見た人が感じたことが映画の主題なんでしょうね。 きっと...
つきなみな言い方だけど...
この映画に感銘を受けたのだけど、
感想ではなく、感じたことを書きます。
口から出てくる言葉、顔つきや眼の軌跡、手足先の表情で、
目の前で存在しているかのように、リアルな映像になっている。
俗人、俗悪人の嫌らしさで気分が悪くなる。
佐賀弁、長崎弁、博多弁が入り混じって、
そんな地方の話し方がセリフの重みを消しているのもいい。
大事な場面では雨が激しく降っている。
息苦しいほどの閉塞感、やりきれない無常観が、
激しく降り続ける雨と重なる。
走り屋仕様のGTRも、 国道沿いの量販店のフロアーも、
老人たちから泣け無しの金を巻き上げる、健康食品販売会の町民会館も、
携帯の中、裸の動画も、 駅の駐輪場で溢れ出る涙も、
それぞれ主人公の部屋の雑な生活観も、
保険勧誘OLのお気楽な食事会も、
あたりまえに聞こえる街の音も、
いろんなことが映画のリアリティを固めていく。
俗人、俗悪人を演じている
岡田将生、満島ひかり、松尾スズキ、山田キヌヲ、余貴美子たちが、
おとなしい善人の無力や暗い部分を浮き立たせている。
柄本明の、激しい怒りがスッと切れる演技に人間の無力を感じる。
老人思いな青年、妻夫木聡の投げやりな日常に切なくなる。
それでも、
「深津絵里がこの映画のすべてだ」 そんな風に感じられる。
原作者.吉田修一が書き表わしていることを、
監督.李相白は映像の中のリアリティにこだわることで表現した。
徹底したリアルを、
「リアリズム」なんてカテゴリィに括られるのは嫌だろうなあ、李相白は。
余分なシーンがなく、映画のテンポがストーリーに合っているので、
妻夫木聡、深津絵里、柄本明、樹木希林、
4人の時間がカット割で絡んでいくリズムが、見ているこちらを掴むので、
最後まで一気に見れた。
出会い系サイトで知り合った男女。
別れ際に、本気で誰かと知り合いたかったことを告白する女性。
車のドアを開けるときに、
「わたし... ダサかやろ ... 」 この瞬間
青年の中で何かが壊れ。そして変わっていく。
そう。青年が何かに目覚めるのは、人を殺したからではなくこの場面からだ。
ストーリーのターニングポイントになっています。
「あんた、大切な人はおるね?
そん人の幸せな様子を思うだけで、自分までうれしくなってくるような人はおるね... 」
意地悪な奴も無能な善人も演じきれる柄本明が話すと、
こんな言葉がスッと入ってくる。
同じようでいて微妙に主題は違うけど、
フランス映画の記念碑。ヌーベルバーグを作った最高傑作。
ジャン.リュック.ゴダールの「勝手にしやがれ」(A bout de souffle)
を、思い出しました。
それとの優劣を、同等性や差異を見出してもしょうがないが、
この映画、「悪人」は何かを残すでしょう。
新しい映画を全て観ているわけじゃないけど、
この数年、私が見た中の最高傑作のひとつです。
間違いなくこの映画はいい。
同じく、李相白が監督した 「69」
http://plastake.jugem.jp/?day=20100116私は、そこでの人が想う「幸せ」を建築で現そうとしていますが、
もし無常観を建築にしたら、どんな「かたち」になるのだろうと、
想いを巡らしてみた