今年は吉松秀樹教授がサバティカルなので、私が授業責任者として設計を指導します。
1年間。せっかくなので「新しい試み」で、たとえ小さなことでも、現状の問題が変わる兆しを見たいと思っています。
ここ数年、ほとんどの大学で学生の設計.計画授業離れがある。
卒業設計をおこなう学生は10〜20%と言う現状です。
建築を学ぶ学生は、さまざまな分野.方向へ進んで行きます。設計はそれらの一部分でしかない。それでも、「計画すること.設計できること」は建築のどの分野であろうとも基本であり、理念で、大事な考え方なのです。大学4年間は設計.計画のトレーニングが必須。
学生が「計画すること.設計できること」を建築学の基本と感じてほしい。
前期授業ですが卒業設計までを視野に入れて「新しい試み」を考えました。
スタジオ制授業を導入します。
基本的テーマは設定されていて、課題の詳細を担当教員が作り指導していく、ちょっと変則的なスタジオです。
ただし、3年前期では今までも教育的な課題設定でした。その課題が示す意味はとても良いと思っていて、だから基本は継続させます。それは、課題を建築のタイプ別に考えることよりも(例えば、公共建築とかオフィスとか図書館とか...)、都市や都市周辺部での大きい建築や場所の、高いか低いか(低層建築、高層建築)。それはどのような違いがあり、都市との関係や影響は何なのか?、未来をスタディする2課題です。
それと、
近年、多くの大学で、卒業設計に住環境や住宅のテーマが見られます。また、東海大は多くの学生が建築関連に進んで行き、住宅関連への進出も多数。そして、3年時も住宅の設計を望む学生がいます。それなら、敢えて3〜4年時でも住環境のトレーニングをさせて「住環境のスペシャリスト」を正しく指導していこう。と、考えました。
「低層建築スタジオ」「多層建築スタジオ」「住環境スタジオ」の3スタジオで、学生の希望で振り分けます。学生は第一課題と第二課題で違うスタジオ選択をします。担当教員は2課題でシャッフルされます。そして、3スタジオが無関係に指導していくのではなく、ある程度の関連をさせるために、低層、多層は同じ敷地を設定(できれば住環境も同じ敷地にしたい)。きっと学生は、同じ場所でも建築や空間が低いか高いかで、その違いを学べます。都市で近未来をデザインするためには、考えるべき大事なことです。
そんなこんなで、授業方向性を議論し、時間ぎりぎりまで課題設定を模索して、何とか「新しい試み」はスタートしました。
「低層建築スタジオ」
都市や都市周辺部で、街の核となるような場所を計画するスタジオです。地面に近い空間は、街やストリートがそのまま繋がったような公共のスペースとなる。それは街の一部、公園のような場所、みんなのスペースとして人が集まるでしょう。街と一体となった、自分の空間のような「みんなの場所
」をデザインします。高層化されていく都市で、低い建築(場所)が持っているポテンシャルや街との関係は意味があります。
「多層建築スタジオ」
床が積み重なることは、建築空間が上下に関係されていくことです。上へ上へと繋がっていく空間は魅力的です。超高層など大規模な建築は、単に「背の高い建物」の意味を超えて、小さな街、ミニ都市の可能性を持っています。建物というより「一つの空間システム」と言えます。空へ向かって上へ上へと繋がっていく「都市建築」をデザインします。高層建築は未来の風景に向けて立っています。
「住環境スタジオ」
住宅はほぼ全ての人が毎日使っている。ある意味、慣習に染まった「住宅」を純粋に「建築」として考えるのは難しい。また、集まって住む場所にはコミュニティが生まれ、集合は社会に「顔」を見せます。近隣環境への配慮は重要。それら、住環境のカタチをデザインするスタジオです。人の寸法から街とのスケールまで。生活のプライバシーが、コミュニティや社会性と共存するとどんなカタチになるのでしょう。
古見 演良